野村證券元社員(事件7日後に懲戒解雇)の事件内容は報道が継続されているため割愛するが、事件発覚後、野村證券は社員が顧客宅を訪問する際に事前承認を必要とするルールを設けると発表した。
かねてから私が指摘している「対面営業の進化が必要」という主張が、最悪の結果を受けて動き出したことになる。
しかし、これは証券会社全体の「統一ルール」ではなく、事件当事者の会社が独自に定めただけだ。
その会社がたまたま最大手ということで、追随する会社もあると予想されるが、全ての証券会社が同様の対応をするわけではない。
一部の証券会社社長に話を聞くと、「日本の証券業界には『大手証券』『中堅証券』『零細証券』そして『ブティック証券』などが存在する。
資本と規模の違いから、当然、社員の能力も大きく異なる。
同時に投資家のリテラシーも大きく異なることから、全国統一ルールなど強く締め付けを始めれば、投資家のメリットも激減する」と言う。
しかし、私は引き続き「対面営業の進化が必要」を強く提言したい。
外資系投資銀行に30年以上勤務し、日本の多くの証券会社に商品を紹介し卸してきたが、商品本部担当者の顧客保護へのリテラシーは非常に低く、商品知識への理解も決して高いとは言えない。
一般業界よりも年収が高いことから、経営者からの収益圧力に応える姿勢しか私には見えなかった。
若い読者もいるだろうから、日本古来の「対面営業」の問題点を時系列で説明しよう。
バブル時代終焉までは、証券会社が自己都合で推奨する株式銘柄を強引に買わせることが当然の取引スタイルだった。
1980年代の日本
当時は金融工学などの知識が日本にはほとんど浸透しておらず、会社の知名度と営業マンの熱意だけで顧客は投資判断をしていた。
そして、裏では「損益補填」なども行われていた。
その後、「損益補填」は行われなくなったが、証券会社が個別に推奨する銘柄を「対面営業」で販売することは続いた。
その結果、長期の株式市場下落局面で、多くの投資家が財産と資産を失った。
金融工学が発達し、様々なリスク管理や相場予想が可能になった今も、「対面営業」は続いている。
昨今、被害が大問題になっている仕組債販売も「対面営業」によるものだ。
「対面営業」自体が悪いのではなく、「対面営業マネジメント」のレベルが低いことが問題なのだ。
タブレットを使用した営業が当たり前の時代に、なぜ管理プログラムへの投資をしないのか理解できない。
営業マンがいつ誰と会い、何を提案し、どんな話をしたのか、聞いたのかなど、かなりの部分は営業マンの負担も軽減できるプログラムで管理できるはずだ。
その結果、顧客マネジメントやリスク管理も同時に会社として可能になる。
「対面営業」を続けるのであれば、これはもう必須の経営判断ではないだろうか。
誰に会うのかを事前承認するだけで、犯罪や事故が未然に防げるわけではないことは、学生でもわかるだろう。
経済とは、人から人へ金が尽きるまで流通し合うものだ。
つまり、人と人が話すことで創り出される世界なのだ。
その入り口から出口までの時間と内容を可能な限り情報化することは、証券会社の経営判断材料としてもとても役立つはずだ。
私は次のように予想する。
「対面営業」による投資家との事件と事故は、日本では急激には減少しないだろう。
近々、その理由と想定される事件や事故について詳しく説明したいと思う。
今回は、証券業界の甘い対応を読者に知ってもらうことに主眼を置いた。