インド投資の未来は、魅力的であると同時に、慎重さを要します。
一部では、インドが優良な投資先として注目されています。
過去にベトナムやスリランカが辿ったような「短期のブーム」に陥るリスクとは全く異なる次元です。
ベトナムは急成長を遂げましたが、現在は成長が停滞しています。
また、スリランカはかつて金融機関が成長を謳っていましたが、今では危機的な経済状況に直面しています。
これに対し、インドは異なるポテンシャルを持っており、これらの国々とは単純に比較してはいけません。
しかし、インドを中国と比較することは危険です。
中国のように政府が強力な経済政策を迅速に実行できるわけではありません。
インドの成長は段階的で、法整備の遅れや社会的な問題が大きなハードルとなっています。
とはいえ、法制度の整備が進み、障害となる要因が解決されれば、インドは長期的に持続的な成長を遂げる可能性があります。
引き続き、インド投資のリスクについて具体的に掘り下げていきましょう。
Risk 5. 教育と医療の課題
インドは世界的に教育や医療の分野でも発展が進んでいますが、特に農村部や低所得層ではこれらのサービスへのアクセスが限られています。
教育の質の不均衡:
都市部や中産階級以上の家庭では、良質な教育を受ける機会が増えていますが、農村部では教育インフラが不十分であり、読み書きすらできない人々も多くいます。
教育格差が所得格差の原因の一つにもなっています。
インドでは、公用語が英語で、大体の人が英語が話せると勘違いされています。人口の約10%、つまり約1億2500万人が英語を話すことができると言われています。
カタコト英語を含めると3億人に達するとも言われていますが、結論からいうと、およそ2割です。
私のインド人の友人宅に家族で住み込みの使用人がいました。誰も英語は話せません。
しかし、私の友人は、その家族の子供達にオンラインでの学習を提供しました。
その後、その子供の中の1人は、インド最高ランキングのインド工科大学(いくつかキャンパスがあります)に入学できるほどになり、友人の会社に入社しました。
その子供さんの父母は、文字も書けません。
医療の不足:
医療施設が都市部に集中しており、農村部では十分な医療を受けることが難しいです。
さらに、低所得層にとって医療費が高額であるため、病気が家計を圧迫する原因にもなっています。
医療費が高額だけではありません。医師や医療施設も平民や貧困家庭層には全く足りていません。
ほんの10−15年前までは、インドは高齢者問題はありませんでした。
理由は、医療施設の悪さで生存率が低かったからです。
昨今は、多少は医療施設の供給もされ始めていますが、医薬品の進歩と無料提供で、幼児の生存率は著しく向上しています。
ちなみに、インドでは世界初の牛による救急車が誕生しています。
屠殺が禁じられ 550万頭以上の野良牛の有効的活用
Risk 6. 政治的・社会的課題
インドは多様な文化や宗教が共存する国であるため、社会的な緊張や政治的な対立も経済成長の背後に潜んでいます。
宗教間の対立:
ヒンドゥー教徒とムスリムとの間の宗教的な緊張が一部地域で増しており、暴力的な衝突が起こることもあります。これが地域の安定や経済活動に悪影響を与えることがあります。
カースト制度の影響:
インドでは法律でカースト制度が禁止されていますが、依然として根強い影響が残っており、特に低カースト層の人々は経済的、社会的に不利な立場に置かれています。
(投資家への手紙)
インドはその経済成長において多くの成功を収めているものの、社会的な格差やインフラの不備、環境問題、労働市場の不安定さなどの課題を抱えています。
これらの問題に対処しない限り、インドの成長は一部の層に限られたものであり、持続的で包摂的な成長を実現するためには、これらの課題を解決することが不可欠です。
インド市場は、まさにチャンスの宝庫です。
今後の経済成長を見据えたとき、国が抱える課題に対して効果的に取り組む企業や分野は、圧倒的な収益を上げる可能性を秘めています。
特に、外資企業がインドに進出しても、独特の顧客嗜好や営業戦略を理解しきれず、思うような結果を得られないことが多い。
しかし、そこにこそ大きな差別化の余地があるのです。
私は長年インドの金融市場を注視してきましたが、他国の生株と比べても、インドの個別株には強い期待感を抱いています。
日本の証券会社で高いレベルのインド企業分析を行えるところは少ないものの、シンガポールの一部企業が優れた分析を提供しているのを知っています。
もし投資に興味があるなら、インド株を学ぶことは早すぎることはありません。
しかし、投資を成功させるために、プロに任せれば安心だと思い、投資信託に多額の資金を投入していませんか?
それは危険な誤解かもしれません。
確かに新興国の企業は成長が期待されますが、会計監査の基盤が不十分なところも多く、リスクを伴います。
さらに、投資信託の運用プロが投資先企業を頻繁に直接訪問し、徹底的なリサーチをしているとは限りません。
地理的な違いや宗教、言語、商習慣が先進国とは異なる国々での投資運用は、複雑で困難です。
多くの運用者は、その困難さをカバーするために投資先を分散させがちですが、それが必ずしもリスク軽減につながるわけではありません。
投資の基本は、「いかに儲けるか」ではなく、「いかに資産を守るか」です。
そして、投資における最強の武器は「流動性」です。
これを忘れず、まずは生株への投資から始めることが賢明な選択と言えるでしょう。
インドの個別企業は、他に類を見ないエキサイティングな投資先です。
もちろん推奨はしませんが、その可能性について一度学んでみる価値は十分にあるでしょう。