インドの未来は明るいと言われています。
急成長する経済、膨張する人口、優れたIT人材、そして世界の製造拠点としてのポテンシャル――。
こうした魅力を聞かされれば、誰もがインドに投資したくなるでしょう。
しかし、表面上の数字や期待にとらわれるだけでは、見落としてしまう真実があるのです。
今回は、インドの成長の裏に潜む現実に焦点を当て、冷静な視点から考察します。
インドの経済成長は近年、世界的にも注目されており、IT産業、製造業、スタートアップエコシステムの発展により成長率が高くなっています。
しかし、この成長の背後にはいくつかの深刻な社会的・経済的課題が潜んでおり、国の発展がすべての層に公平に行き渡っているとは言えません。
以下に、インドの成長の裏にある現実について詳しく解説します。
Risk1 経済成長と格差の拡大
インドは世界で最も急速に成長している主要経済の一つですが、富の集中と貧富の格差は依然として大きな問題です。
都市部では急速な経済成長により多くの中産階級や富裕層が生まれていますが、農村部では貧困が根強く残っています。
都市と農村の格差:
都市部では高賃金の仕事が増えつつありますが、農村部では依然として低賃金の農業労働が中心です。
この格差が経済的不平等を深めています。
富の集中:
2020年の報告によると、インドの上位1%の富裕層が国全体の富の約40%を所有しており、富が限られた人々に集中しているのが現状です。
インド最大の都市、ムンバイはこの不平等の縮図とも言える場所です。
ムンバイ北部には、アジア最大のスラム街「ダラヴィ」が広がり、推定100万人以上が過酷な環境で生活しています。家には水道や電気が不十分で、狭い空間に多くの家族が世代を超えて暮らしています。
スラム街に外部の人が安易に足を踏み入れれば、身の危険が伴うこともあるため、軽い気持ちで訪れるべき場所ではありません。
私の友人で、アジア地域のトップに立つ米系投資銀行のインド人は、インドへ出張するとき、腕時計を含めた高価な装いは避けるようにしていると言います。
一方、ムンバイ南部には「南ムンバイ」という富裕層の高級住宅街が広がり、海沿いに立ち並ぶ豪邸にはプライベートプールや庭園が完備されています。
物理的にはわずか数キロメートルしか離れていないこの二つの地区ですが、生活水準の差は計り知れません。
このような対比は、インドが直面する貧富の格差の象徴と言えるでしょう。
G20やBRICSの国々の中でも、これほどまでに顕著な貧富の差が存在するのは、インドだけかもしれません。
成長と貧困が同時に進行するこの大国は、今後どのような未来を歩むことができるのかは、そう簡単に楽観視できることはありません。
Risk 2. インフラの不十分さ
経済成長に伴いインフラも改善していますが、依然として多くの地域で基盤施設の整備不足が問題となっています。
電力供給:特に農村部では、安定した電力供給がない地域がまだ多く存在します。
これが農業の生産性や産業の発展を制約する要因となっています。
交通インフラ:都市部では交通渋滞や公共交通機関の不足が深刻であり、経済活動に支障をきたしています。
一方、農村部では道路網が不十分で、都市との接続性が限られている地域も多いです。
IT大国と言われ、インドは急速にデジタル経済へ移行していますが、その恩恵を受けるのは主に都市部の中産階級以上です。
例えば、デリーやバンガロールでは、5Gの高速インターネットが利用可能で、テクノロジー関連の新興企業が急成長しています。
しかし、農村部ではインターネットアクセスが限られており、学校や医療施設もオンラインサービスを利用することが困難な地域が多数あります。
このデジタル格差は、教育、ビジネス機会、情報へのアクセスにおいて重大な差を生み出しています。
インドでなぜこれほど金の需要が高いのか、本当の理由をご存知でしょうか?
多くの人は「宗教的な儀式に必要だから」と答えますが、それだけでは不十分です。
真の理由はもっと根深いところにあります。
特に、電気も銀行もない地方や農村部では、金が実質的な流通通貨として機能しているのです。
2016年、モディ首相が突如発表した高額紙幣廃止を覚えていますか?
彼は深夜の演説で「明日からこの二つの紙幣は使えなくなる」と宣言し、わずか4時間の猶予を与えました。
この政策は富裕層が隠し持つ脱税資産を暴くためのものでしたが、その結果、1兆円もの隠し所得が明るみに出ました。
IT大国と称されるインドにも、目を覆いたくなる現実が広がっていました。
都市部の急速な発展の陰で、地方や農村では、その波が届かないままの人々がいます。
政府が突然、紙幣を廃止した際、多くの農村部の人々はその情報すら知らされず、廃止された紙幣を受け取ってしまい、騙される事例が後を絶ちませんでした。
彼らにとって、IT革命やデジタル化の恩恵は遠い存在であり、そのギャップは国全体のインフラ整備の遅れを如実に浮き彫りにしています。
現代インドの成長を支える基盤が、いまだ一部の地域にしか届いていないという、この厳しい現実を無視してはならないのです。
Risk 3. 失業と労働市場の不安定
インドは若者の多さが「人口ボーナス」として期待されていますが、その一方で、労働市場は不安定で、多くの人が将来の見通しに不安を抱えています。
特に高学歴の若者たちが失業に苦しむ現状は、インド社会に深刻な影響を与えているのです。
インドは世界でも有数の若年層人口を抱える「人口ボーナス」を享受している国です。
しかし、その潜在的な強みが十分に活かされているとは言い難く、労働市場の整備不足により多くの人々が不安定な仕事に就かざるを得ません。
特に都市部では、大学を卒業しても希望する職に就けない若者が増え、いわゆる「学歴失業」の問題が深刻化しています。
インド労働市場に関する国際労働機関(ILO)の最新報告書によれば、大学卒業者の失業率は29.1%に達し、読み書きができない人(3.4%)の約9倍に上ります。
さらに、中等教育以上の学歴を持つ若者の失業率は18.4%で、学歴の低い人々に比べて約6倍も高いのです。
IT産業やサービス業が一部で成長を続けている一方、製造業や農業では低賃金労働が依然として主流であり、高学歴の若者がかえって職に就きにくいという逆説的な状況が広がっています。
ILOもまた、「インドの若年層失業率は世界平均を超えている」と警鐘を鳴らしています。
さらに、インドでは非正規労働が労働市場の主流となっており、多くの労働者が正規の雇用契約を結べず、日雇いや短期契約に頼らざるを得ない状況が続いています。
こうした労働者たちは、社会保障の対象外であり、労働者の権利も十分に守られていません。
この不安定な雇用環境が、治安の悪化や暴動といった社会的リスクを高めているとも言えるでしょう。
インドがこの「人口ボーナス」を真の成長力に変えるためには、労働市場の構造改革と、若者の雇用機会を広げるための政策が急務です。
Risk 4. 環境問題
インドへの旅行やビジネス出張を計画している方に、意外と知られていない現実があります。
それは、急速な経済成長の影で、環境問題が深刻化していることです。
インドの都市部は、経済の発展と共に大気汚染、水資源の枯渇、衛生面でのリスクが増大し、観光客やビジネス関係者にも大きな影響を与えています。
インドの成長が華々しい一方で、その裏側に隠された現実は、私たちが思っているよりも厳しいものなのです。
大気汚染:
見逃せない都市の危機
デリーをはじめとするインドの大都市は、世界で最も空気が汚い都市のひとつとされています。
車両からの排ガス、工場の排気、そして農村部での野焼きが重なり、呼吸器疾患が増加しています。
しかし、こうした事実が大きく報道されることはあまりありません。
発展途上国では当たり前とされ、特別にインドが酷いわけではないとされることが多いためです。
しかし、インドの大気汚染エリアに長期滞在することは、私たちにとって非常に危険です。
私は以前、プロジェクトファイナンス関連の調査でインドを訪れた際、マスクを着用していたにもかかわらず、5分ほどでマスクが真っ黒になりました。
その後、ホテルに戻った時には鼻毛が驚くほど伸びていたのを覚えています。
喉の痛みもひどく、インドの大気汚染がいかに深刻かを痛感しました。
水資源の危機:知られざる日常
インドは世界でもトップクラスに水資源が不足している国です。
地下水の過剰利用や管理不足により、多くの地域で深刻な水不足が続いています。
日本の水道水整備や水質管理に慣れ親しんだ私たちにとって、インドでの水の利用には注意が必要です。
ホテルの水ですら避け、氷も使わない方が無難です。
高確率で、旅行者は滞在中に下痢を経験します。
大都市の観光地では状況が改善されていますが、少しでも都市部を離れると状況は一変します。
インドで下痢予防は不可能と思ってください。
衛生問題:命に関わるリスク
狂犬病は未だにインドで大きな問題です。
予防接種をせずに訪れた外国人観光客が、野良犬に噛まれ狂犬病で命を落とす例が後を絶ちません。
さらに、地方の海岸では、村民がビーチで排泄する光景も見られ、衛生環境は非常に悪いです。
私が訪れたビーチでも、至るところに人糞が放置され、それが砂に埋まり堆肥のようになっていました。
匂いを思い出すだけでも、背筋が凍る体験です。