インドへの関心が急増している昨今、銀行や証券会社の営業からの勧誘も増えています。
特に投資やビジネス展開に伴う政治的リスク、法制度の整備、人材能力、さらには欧米諸国と異なるリスクに対する懸念がセレン編集部に多く寄せられています。
しかし、これらのポイントをきちんと理解していないまま、営業マンの言葉を鵜呑みにしてしまうのは危険です。
反面、インド成長には期待が持てます。
私は欧米投資銀行のアジア拠点で20年以上にわたり、数多くの取引を手がけてきました。
その経験から、日本国内の金融機関や日本に勤務する金融マンでは知り得ないインドの特有のリスクや機会についても深く理解しています。
しかし、その話に進む前に、まずは基礎的な知識をお伝えし、「知ったかぶり」の営業マンに惑わされないようにしていただきたいと思います。
インドへの投資に誘われる際に、必ず触れられる5つの魅力は以下の通りです。
1 経済成長が期待される
インドのGDP成長率は年平均6.5%と見込まれ、IMFによると2028年には世界3位に躍進する可能性があります。
2 内需の拡大
人口14億人を超えるインドでは、今後さらに内需が増加すると予想されています。
3 若年層の豊富さ
インドの生産年齢人口(15~64歳)は約68%を占め、特に20~30代の人口が多く、成長の原動力となっています。
4 インフラ投資の推進
インド政府はインフラ投資を積極的に進め、経済発展の基盤を整えています。
5 チャイナプラスワン戦略の台頭
米中対立が長期化する中、米国企業にとって中国に代わる有望な投資先として、インドの魅力が増しています。
これらのポイントは確かに事実です。
しかし、こうしたデータをそのまま受け入れるだけでは不十分です。
数字の裏に隠れた背景や歴史を踏まえた上で、より俯瞰的にインドの実情を見てみましょう。
なぜインドは中国に遅れを取ったのか?
1990年代、インドと中国は経済的にほぼ同じスタート地点に立っていました。
しかし、中国は経済特区を設立し、外国企業の投資を積極的に受け入れる自由化政策を推進しました。
その結果、中国は輸出を急速に拡大し、世界経済の中心的存在となりました。
一方、インドはその時期、経済特区もなければ、輸出を支える産業もありませんでした。
イギリス統治の歴史から、外国企業への不信感が根強く、国内の強力な財閥と国営企業が変革を阻んでいたのです。
とはいえ、インドは現在、政権の安定化とともに、経済的な変革の可能性を秘めています。
人口で見ればインドはすでに世界一か?
中国とインドの正確な人口把握は難しいと言われています。
特に中国は「一人っ子政策」の影響で出生届が提出されないケースが多く、統計の信頼性に疑問が残ります。
現在の出生率では、インドが2.07、中国が1.45とされており、実質的にインドが世界最大の人口を抱える国となったと考えられます。
インドのIT技術者は世界最高水準
1990年代のWindows 95の登場により、アメリカではパソコンの普及が進みました。
この時期、移民としてアメリカに渡ったインド人技術者は、その数学的能力と低賃金で重宝され、シリコンバレーの中華系や韓国系技術者を凌ぐ存在となりました。
その後、アメリカのIT企業はインドを主要なアウトソーシング先とし、インドはIT産業大国へと成長しました。
今日では、コンサルティングからソフトウェアの企画まで、ほぼすべてのIT業務がインドで完結できる体制が整っています。
モディ首相の改革とDX推進
現政権のモディ首相は、官僚の介入を減らし、民間主導の改革を推進しています。
これは日本の郵政民営化にも似ていますが、インドでは道路や鉄道、港湾、電力、衛生インフラの整備が急務です。
現状では、3割の小学校にトイレがないという問題もあり、これらの改善が生産性向上と海外投資の呼び込みに直結しています。
加えて、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、インフラ整備はさらなる加速を見せています。
戦略的自立性を掲げるインド外交
モディ首相は、インドの戦略的自立性を強調し、国際社会での存在感を高めています。
G20での手腕を見てもわかるように、インドは対立を避けながら多国間の調整役を果たす力を持っています。
インドの成長市場に対する期待が高まる中、今後も世界中から注目される存在であり続けるでしょう。
今回は、インドの明るい側面のみを紹介しました。
次回 は、インドが直面する課題とリスクについて詳しくお話しします。