金融市場について以前に何度か寄稿させていただいていたSnow Whiteです。
セレン編集部の依頼により、これからマーケット動向について毎週発信することになりました。よろしくお願いいたします。
ドル/円は先週金曜のニューヨーク市場でドル円が一時149円台に達しました。
先週の円安進行は、
(1)石破首相の利上げ否定発言(10月2日)、
(2)想定外に強い9月米雇用統計(4日)
という2つの理由によるものです。
簡単に言えば、「日銀の追加利上げとFRBの大幅利下げ」という市場の前提が崩れる兆しが出てきたことに市場が反応しました。
まず、石破首相は植田・日銀総裁と10月2日に会談した後、「日銀の政策について、政府としてあれこれ指図をするような立場にはございません」としながらも、「個人的には、現在、(…)追加の利上げをするような環境にあるとは考えておりません」と発言しました。
この発言を受け、ドル円は146台へと3円以上、円安が進行しました。
重要なのは、9月27日の自民党総裁選の決選投票で石破氏が勝利する直前に記録した146.35円を超えたことです。
自民党総裁選の前に、海外投資家は高市氏の勝利でアベノミクスが再開される「高市トレード」を手掛けていました。
特に、高市氏の9月23日の「今、利上げをするのはあほやと思う」という発言は英語でも広く報じられ、日銀の利上げに理解を示している石破氏とは対照的とみられていました。
高市氏と石破氏の決選投票は「アベノミクスに関する投票」と位置付けられており、石破氏勝利によってドル円は142円台まで一気に3円以上も円高になりました。
自民党はアベノミクスから離れて日銀の正常化を認めることを決定したと受け止められたのです。
石破氏の勝利の後の円高・株安は、「石破ショック」というよりも、「高市トレードの反転」と捉えるべきものでした。
市場では、日銀の12月の利上げ予想が再浮上しました。
しかし、石破政権が成立してみると、石破氏は人事を除くと何も自分の意志を通すことができず、基本的には岸田政権の継承にすぎないことが誰の目にも明らかになってきました。
加えて、日銀の植田総裁自身も9月以降に発言のトーンを変えていました。
9月20日の記者会見および9月24日の講演で、「米国経済の展開は依然不確実」のため、状況判断を行う「時間的な余裕はある」と繰り返していました。
石破首相は3日夜、「時間的余裕はある」という植田総裁の認識を念頭にしたと釈明しました。
これは間接的に、植田総裁自身もしばらく様子見する姿勢であることをかえって強調したことになります。
さらに、4日夜の9 月米雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比+25.4万人と市場予想(+15万人)を10万人も上回り、過去2ヶ月分も合計7.2万人上方修正されました。
四半期ベースで見ると、7-9月期平均は18.6万人増と、4-6月期平均の14.7万人をむしろ上回りました。
失業率も2ヶ月連続で4.1%へ低下しました。
これは非常に重要です。
9月18日のFOMCで0.5%の利下げを決定する際に、FRBは雇用の伸びの表現を「鈍化した(have moderated)」から「減速した(have slowed)」に修正していました。
しかし、実際には雇用は底打ちしていたのです。
また、FRBは9月時点で、今年末には失業率が4.4%へ悪化することを前提に、11月と12月の2回の会合で合計0.5%の利下げを行うことを予想していました。
想定外の雇用改善が示されたことを受けて、FRBの利下げを見直す動きが強まり、ドル円は一時的に149円を上回るまでドル高が進行したのです。
ただし、米雇用統計は確かに世界的に重要なイベントでしたが、ドル円の変動は実は脇役に過ぎなかったことも付け加えておかなければなりません。
海外投資家にとって日本はもう主要なターゲットではなく、中東情勢の緊迫化と中国の景気刺激策が最大のテーマとなっています。
今週はもう紙幅が尽きましたが、読者の皆さんにはイスラエルと中国のニュースに注意を払うことをお勧めします。
来週号では、こうした問題も取り上げたいと思っています。