どの世界においても、その道のプロが居る。現場の専門家がいる。

もし、プロでもない者が、その道の蘊蓄うんちくを語ったら、あなたはどう考えるだろうか。

例えば、プロ野球中継でアナウンサーが解説者の話に割り込むことはあるだろうか?

試合の経過を伝え、解説者に質問することに徹するのではないだろうか。

 

しかし、スポーツ新聞などで、記者が「監督采配」「投手配球」「打者スィング」を論じる事がある。

プロ野球の監督や選手は果たしてそれに耳を傾けるだろうか?

答えは、「プロとしてプレーした経験もないのに、何がわかる!」である。

ごもっともではないだろうか。

 

金融の世界も例外ではない。

 

30年近くグローバルな金融機関に勤務していた経験から、率直に言おう。

 

巨大なリスク・資金そして自らの職を賭けて市場で戦っているプロが、トレーディング経験も無い記者が書く相場予想に耳を傾けるだろうか。

それ以前に、相手するだろうか。

 

答えは、「NO」、「現場を知らず聞きかじっただけの情報に全く価値はない」である。

 

記者は、市場で何が起こっているのかを出来るだけ分かりやすく多くの読者に伝えようとする。それは賞賛に値する仕事である。

しかし、記者自身が市場を予想したり、今後のリスクに関してコメントするのは領海侵犯としか言いようがない。

一般読者がそれを信じた場合、被害者が出る可能性が高い。

 

セレンでは、国際金融のど真ん中に長年居られるSnow white氏が2度わたり読者からの問い合わせに回答した際に、警鐘を鳴らしている。

 

記事1 日経新聞さん、世の中を惑わすのはやめてください(クリック)

記事2円相場 153円台でも介入無し」はなぜか(クリック)

 

特定の記者を誹謗中傷しているのではない。

日本のメディアを読んでいては国際金融市場は分からない、というのは厳然げんぜんとした事実である。

 

私が疑問に思うのは以下の点である。

情報収集能力、調査能力、分析力への信憑性

疑問1:

☞海外時間に相場が動いた場面で、なぜ邦銀・日系証券しかコメントしていないのか?

☞実際に市場を動かしているトレーダーの情報がなぜ具体的に伝えられないのか?

○巨額の資金を運用している会社では、基本的に現場の取材はNGであり、広報担当者が対応する。

レピュテーションリスク(Reputation Risk)があるだけでなく、自社の利害に影響するからである。

○相場が動いた時、市場参加者に信頼されているエコノミスト・ストラテジストは、顧客や自社のトレーダーへの情報提供に忙しく、メディアに対応している時間がない。

辛辣な言い方かもしれないが、すぐにメディアに対応できるのはプロからのニーズがない証拠である。

○ブルームバーグ、ロイター、WSJ、FTなど、全世界のプロが読んでいるグローバル大手4社以外の取材以外は優先順位が低い。

ただ、国内金融機関だと、テレビ出演は会社の知名度を上げるために重視される場合もある。

ただ、いずれにせよ国内新聞の取材は対応に時間を取られる割に引用されるのはわずかであるので(引用されない場合もある)、コスパが悪い。

 

疑問2:

☞「投機筋」や「ヘッジファンド」によって市場が動いたとよく報道しているが、本当だろうか?

○基本的に、プロが市場で誰が何をしているかはリアルタイムでは分からない。

これは、「知っている人は言えないし、言っている人は知らない」世界である。

自社や顧客の取引情報を漏洩したことが分かれば、即座に解雇され、訴訟される。

そんなリスクを取って新聞の取材に答えるだろうか?

〇為替では、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の国際通貨先物市場(IMM)の通貨先物取引の非商業部門ポジションが「投機筋」の動きのデータとして用いられることが多い。

しかし、そうだとすれば、「投機筋は米国市場の先物取引でしか取引を行わない」というのが前提となる。

ナンセンスである。

為替は銀行との直接取引が中心の市場であるからだ。

〇余談だが、中途半端な人ほどヘッジファンドの動きを語りたがる。

これは、「私はヘッジファンドとは全く関係がありません」と公言しているに等しい。

そのような情報は有害なので、相手にしない方がよい。

 

疑問3:

☞日本のメディアとグローバル・メディアとの差は何か?

 

○簡単である。日本のメディアは基本はサラリーマンで、定期的な人事異動によって担当部署が変わる。

このため、同じ担当を20~30年続けているような専門家はほぼ存在しない。

編集委員やキャップと言っても、広く浅く記者経験を積み上げて、会社で出世しただけの人である。

○グローバル・メディアは記者の専門性を重視するだけでなく、トレーダー経験者を記者として採用している。

私が香港で勤務していた時に原油トレーダーだった英国人の元同僚は、現在ではグローバル・メディアの原油担当記者をしている。

旧知のトレーダー仲間からの情報を元に、非常に信頼性の高い記事を配信している。

結論:国際金融市場は日本のサラリーマン記者が

踏み入れるには,まだ早い世界

 

セレンでは、幾度となく、為替市場の予想は非常に難しいと伝えてきた。

投資の神様も、常に勝ち続けるトレーダーもいない。

市場は生物であるので、理論も成り立たない。

どこかに正解があり、それに従えばよい、というような甘い幻想は捨てるべきだ。

 

国際金融市場は生半可の知識で太刀打ちできる世界ではない。

日本のメディアのサラリーマン記者がプロの市場参加者と肩を並べるだけの知識と理解を身につけることは、非常に難しい

 

それよりも、高い給料を払ってそれ相当の人材を採用すれば良い。あるいは、外部委託すれば良い。市場情報は読み物ではない。儲けるための武器なのである。

 

少なくとも、自分が投資判断を行う上での情報は市場のプロから得るようにしたい。

私が多少なりとも信頼しているのは、前述のグローバル大手4社の記事と、外資系金融のレポートである。

現状のままでは、日本のメディアの記事はプロのレベルに達しているとは言えない。