米大統領選挙は、接戦という事前予想に反して、トランプ氏が7つの激戦州を全て制する大勝となりました。

 

同時に実施された議会選挙でも上下両院ともに共和党が勝利しており、2025年から少なくとも2026年11月の中間選挙までの2年間はトランプ氏の政策が実現されることになります。

 

10月21日の寄稿で説明したように、市場はすでに10月中旬からトランプ氏の勝利を織り込み始めていました。

 

財政赤字の拡大や関税によるインフレの上昇などによる悪い金利上昇を指摘する見方もありますが、私は第2期トランプ政権が米国を再び「偉大」にする可能性があると考えています。

 

トランプ氏の本質はビジネスマンです。

選挙戦でも、戦争の早期終結を一貫して訴えていました。

 

さらに、バイデン政権下で行き過ぎた「ポリティカル・コレクトネス」がトランプ次期政権では修正され、よりビジネス・フレンドリーな環境となるでしょう。

 

特に私が注目しているのはITサイクルです。日銀が11月1日に発表した『展望レポート(全文)』には、興味深い分析が含まれていました。

日銀は世界の半導体出荷額の周期を①短期(2四半期〜2年)、②中期(2〜6年)、③長期(6~10 年)に分解しています。

 

そして、短期的なPC・スマホ等の買い替えサイクルのみでなく、生成AI等による需要の高まりによって中・長期的なサイクルも上方への転換点に差し掛かっており、こうした需要の強さは 2026 年頃まで続くと予想しています。

 

 

トランプ政権の最初の2年は、この中・長期的なサイクルの上昇局面と一致するのです。

そのことを踏まえると、J.D.ヴァンス氏が副大統領として政権入りすることは極めて重要です。

 

ヴァンス氏は、2016年に出版した著書『ヒルビリー・エレジー』で有名ですが、単なるベストセラー作家ではありません。

ベンチャー・キャピタルで活躍した後、元上司のピーター・ティール氏の支援を得て2022年に上院議員に当選して政界入りしました。

 

ティール氏はイーロン・マスク氏とともにペイパルを起業した人物であり、2016年の大統領選挙でトランプ氏に巨額の寄付をしています。

今回の選挙ではトランプ氏と距離を置いていますが、ヴァンス氏を通じて経済政策の考え方に影響を及ぼすのではないかと思われます。

 

 

ティール氏の発想は「我々は空飛ぶ自動車を欲したのに、代わりに手にしたのは140文字だ(We wanted flying cars, instead we got 140 characters)」という有名な言葉に表れています。テクノロジーはバーチャルな世界だけでなく、実社会をより良くすることに貢献すべきだということです。

 

ティール氏はフェイスブック(現メタ)に初期から投資していましたが、2022年に取締役から退任しています。

 

興味深いことに、140文字つまりツィッターは、ティール氏の盟友のマスク氏に買収されました。言うまでもなく、マスク氏はテスラやスペースXなど、テクノロジーを活用したものづくりを行う企業を経営している実業家です。

 

 

ティール氏は2014年の著書『ゼロ・トゥ・ワン』(関美和訳)で、今後の世界について「途上国が先進国に追いつき、世界経済全体が横ばい(プラトー)になる」としても、「それは持続するのだろうか?仮にそうなったとしても、個人や企業にとって競争はこれまでになく厳しいものになるはずだ」と問いかけます。

 

そして、「競争圧力を和らげる新たなテクノロジーがなければ、停滞から衝突に発展する可能性が高い。

グローバル規模での衝突が起きれば、世界は破滅に向かう」。

 

 

ティール氏は別の可能性としてテイクオフ、つまり「新たなテクノロジーを生み出し、はるかにいい未来に向かう」シナリオもあると論じます。

 

このいちばん劇的なケースが「シンギュラリティ」ですが、「未来は自然に起きるわけじゃない」ため、「今僕たちにできるのは、新しいものを生み出す一度限りの方法を見つけ、ただこれまでと違う未来ではなく、より良い未来を創ることーつまりゼロから1を生み出すことだ」。

 

 

確かにトランプ氏は「劇薬」です。

しかし、先進国と途上国の均一化に向かわせるグローバリゼーションに歯止めを掛け、テクノロジーをSNSなどバーチャルな金儲けではなく人々の生活に役立つ形で用いるようにする上で重要な役割を果たすかもしれません。

 

もしトランプ氏の勝利が経済にとって完全にネガティブならば、市場がドル高・株高・金利上昇で反応することはなかったでしょう。

 

このことを確かめるために、2025年1月20日のトランプ氏の就任まで、人事や政策についての情報を見極めたいと思います。