11月5日の米大統領選挙がいよいよ間近に迫りました。
10月31日の日銀決定会合で植田総裁はいつでも利上げができる態勢に戻し、11月1日の10月米雇用統計は(ハリケーンやボーイングのストの影響とはいえ)予想以上に弱い内容になりましたが、円安・ドル高の勢いは続いています。
私は引き続きトランプ氏の勝利を基本シナリオとしていますが、現時点で選挙後の見通しを語っても意味がないため、今回は日銀決定会合について解説しようと思います。
11月7日に米大統領選挙の開票が終わった後、改めて新しい記事を配信する予定です。
10月31日に日銀は政策金利を据え置きましたが、植田総裁は記者会見で重要なメッセージを送りました。
「時間的余裕という表現は、今後使わない」と明言したのです。
これだけだと理解しにくいと思いますので、やや振り返って説明しましょう。
日銀が7月31日に利上げを行った後、米国経済への懸念が強まったこともあり、8月上旬に円高・株安が急激に進みました。
これを受け、日銀の内田副総裁は8月7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」と述べ、さらにその後の記者会見で「時間的余裕のあるパスが念頭に置かれている」と発言しました。
日銀がすぐには追加利上げを行うことはないという見方が強まり、市場は落ち着きを取り戻しました。
そして、植田総裁も9月20日の決定会合後の記者会見で、「政策判断に当たって、(…)時間的な余裕はあると考えています」と述べたため、この表現がキーワードとなったのです。
植田総裁の今回の会見での説明は、以下のようなものです。
- 8月以降にこの表現を使い始めたのは、米国の弱い雇用統計とマーケットの荒い動きが重要なリスクと判断し、注意深く検討していくという意味だった。
- その後、市場は少しずつ安定を取り戻し、ここ1か月くらい米国の統計はかなり良いものが続いている。
- リスクの度合いは少しずつ下がってきているため、時間的余裕を持ってみてゆくという表現は不要になると考えて、使わないことにした。
そして、植田総裁の表現を借りれば、今後は「毎回の会合までに入ってきた情報やデータに基づいて判断していくということですし、その中で、見通し実現の確度が上がっていけば、適宜政策の調整につながっていく(=利上げを行う)ということになります」。
さらに、植田総裁は為替について、「過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」と繰り返し述べました。
注意していただきたいのは、10月31日の会合前のドル円の水準(153円近辺)は、7月31日に利上げを決定する直前(153円近辺)とほぼ同じだったことです。
黒田前総裁は、為替を理由に金融政策を変更することはないと表明していました。
これは、黒田氏が1999〜2003年に財務官を務めていた経験から金融政策(日銀)と為替政策(財務省)を明確に区別していたことが一因ですが、それ以上に当時はインフレ自体が上がらないなかで為替の影響が小さかったことがあります。
しかし、今では為替が従来以上に物価に影響を及ぼすようになっているため、もはや無視することはできません。
米国経済が好調を続け、円安が進行する環境では、12月19日の次回会合で日銀が追加利上げを行う可能性は十分にあると思われます。